2026年3月8日の産経新聞
<イチオシ詩歌3月>に
詩集『幽光』の書評が載っていました。
(伊原順子さんの詩集「タペストリー、光の』の書評に続き…)
もう1冊は糸田ともよさんの詩集『幽光』(ふらんす堂・2750円)だ。糸田さんは昭和35年、札幌市生まれ。歌人でもあり、作詞も手がけている。
本書には4行詩ばかりが106編収められている。いずれも静かではあるが強い喚起力を持ち、読み手の想像力を刺激する。読んでいて、物語や景色が浮かび、音楽が聞こえ、暖かさや冷たさが伝わってくる、そんな詩集である。
《雪のなかを/歩いてきて/よく冷えた本を/贈りあう》
オー・ヘンリーの短編小説「賢者の贈り物」が持つ暖かさに通じる、札幌出身の糸田さんらしい作品といえる。
《二重露光の/夢と森/古い手紙の時候を/ひとり》
いろいろな物語が紡げそうな結晶のような作品だ。作者の脳裏に夢、森、手紙、時候が重なり合って同時に現れる。その瞬間、作者は透明で少し冷たい孤独を感じている。
《雨夜にかえす/博物誌/森の奥から/輪転機のおと》
自然、文明、記憶が幾重にも折り重なった象徴性に富んだ作品だ。「博物誌」とは「蝶 二つ折りの恋文が、花の番地を捜している」と書いたルナールのそれか? 読み手はおのずと自分の記憶の森に分け入り、それぞれの味わい方をするはずだ。(桑原聡)